ブレーキ

「アクセルよりブレーキだよ」。東京時代モーターレースに関わる仕事をしていた。その仕事から離れて随分年月が経っているのに、この言葉だけは記憶している。

富士スピードウェイで日本のフォーミュラ・レース最高峰のフォーミュラ・ジャパンを観戦している時に、レースに精通している社員がふと呟(つぶや)いた言葉だ。コーナーに突っ込む時のスピードは半端じゃない。事故もここで多発する。ドライバーにレース中恐怖に襲われる時がある。それを瞬時に感じ取ったチームリーダーはレシーバーを通して「ゆっくり入れ」などとは決して言わない。逆に「行け！」と鼓舞する。スピードを出すこと自体はマシーンの性能でなんとでもなる。恐怖心がブレーキのタイミングを狂わせるときに事故が起きる。

「アクセルよりブレーキだよ」とは、考えて踏むというより、無心のうちに踏み込んでいるかどうかだ。

 

大晦日、午前零時が近づくにつれて、そんなの関係ないよという人でも、つい今年を振り返ってることに気づかされる。カウントダウンで歓声をあげる人たち、雑踏の中で一人涙を流す者、ひとしくアクセルをゆるめてブレーキを踏む瞬間。あれこれ考えず、無心で迎えているかなぁ。

(今年見納めの陽の光→)