グラジオラス
子供の頃さ、近くの野山にブリキの小さい空の弁当箱をもって野いちご狩りに行った。いよいよ山に入るという時にいつも出迎えに会った。「おい小僧、この山に入るときはわたくしに挨拶しなさい」と。気高く、青々と、赤々と、自信に満ち、まるで山の神のような威厳があった。
街を流していた。テッポウユリがあちこちに華やかに飾られている・・・が、ないなぁ・・・おっと~、あった、こんな道端に無造作に。懐かしい山の神。しかし、車の往来が多く排気ガスにまみれ元気がない。おい、寂しくないか、こんなコンクリ箱に詰め込まれて。自由がなく、まるで鎖につながれただけの見世物だ。あの気高き誇りはどこへ行った。これはあの山の神、グラジオラスではない。そうか・・・なにも答えてくれないのか。ま、あれから世の中、だいぶ変わってきたからな。